OMNIVISION

【連載:現場目線で選ぶイメージセンサ 第4回】 動く被写体が歪むのはなぜ?「ローリング」と「グローバル」シャッター方式の選択基準

2026.09.04

OMNIVISION Technologies, Inc.
(オムニビジョン・テクノロジーズ)

はじめに

第4回:動く被写体が歪むのはなぜ?「ローリング」と「グローバル」シャッター方式の選択基準

■はじめに
こんにちは。加賀デバイスのOMNIVISION Teamです。
前回の第3回コラムでは、センサの出力フォーマット(RAWとYUV)の違いや、それに伴うデモザイク処理の負荷、そしてISPをどこに配置するかというシステム設計の分岐点について解説しました。
今回はOMNIVISION社のスペック表(OMNIVISION Image Sensor Product)にある『Shutter Type』の項目にフォーカスし、「ローリングシャッター(Rolling Shutter)」と「グローバルシャッター(Global Shutter)」の決定的な違いと、現場での選び方について解説します。

■ 2つのシャッター方式:仕組みの違いと「読み取りエラー」の理由
「工場で高速搬送される製品のロット印字やバーコードをカメラで読み取ろうとしたら、文字が斜めに歪んでしまい、画像処理でのエラー(NG)が多発した」「移動体の画像認識(AI)において、被写体が変形してしまい認識率が下がってしまった」・・・・こうした産業用カメラやセンシングデバイスの開発において、非常に厄介な問題となるのがシャッター方式に起因する「動体歪み」です。

センサが光を受光するシャッター方式には、大きく分けて以下の2つがあります。

1. ローリングシャッター(Rolling Shutter)
画素のライン(行)ごとに、上から下へと順番に時差を設けて露光・読み出しを行う方式です。 仕組み上、画面の「一番上のライン」と「一番下のライン」が露光されるタイミングに、わずかな「時間差」が生じます。そのため、露光中に被写体やカメラ自体が高速で移動すると、下のラインに行くほど移動した後の位置が記録され、結果として画像全体が斜めに歪んでしまいます。この歪みが、画像処理システムやAIにおける認識エラーの直接的な原因となります。

2. グローバルシャッター(Global Shutter)
すべての画素(全画面)を「完全に同じタイミング」で一斉に露光・読み出しを行う方式です。 画素ごとの露光時間差が存在しないため、どれだけ高速で移動する被写体であっても歪むことなく、その一瞬の姿を正しく切り取ることができます。

図1に各シャッターの露光タイミングのイメージ、図2に移動している被写体撮影時の歪のイメージを示します。

図1:各シャッターの露光タイミングイメージ

図2:移動体撮影時の歪イメージ

■ 【現場目線の重要ポイント】LED同期発光における「省電力・低発熱」の壁
ローリングとグローバルの比較として「動体歪みの有無」は基本ですが、実はシステム設計、特に「赤外線LEDなどのアクティブ照明と連動させるシステム」において、さらに決定的な違いが存在します。それがLEDの同期発光(パルス点灯)効率です。

FA(ファクトリーオートメーション)の検査ライン、車載のDMS(ドライバーモニタリングシステム)、スマートホームの顔認証などでは、暗所での認識精度を高めるため、また一定の光環境を担保するために、センサの露光に合わせてLED照明を当てる設計が一般的です。この時、どちらのシャッター方式を採用するかで、以下の図3のようにLEDの発光期間(消費電力と発熱)が劇的に変わります。

図3:各シャッターのLED発光期間イメージ

・ローリングシャッターの場合:LEDは「ほぼつきっぱなし」にするしかない
ローリングシャッターはラインごとに露光タイミングがずれているため、画面全体を均一に明るく写すためには、「最初のラインが露光を開始してから、最後のラインの露光が終了するまで」の全期間、LEDを点灯し続けなければなりません。 例えば、1ラインあたりの露光時間自体は「1ミリ秒」と短く設定していても、画面全体の走査に「33ミリ秒(30fps時)」かかる場合、LEDはほぼ33ミリ秒間点灯し続ける必要があります。これでは消費電力が跳ね上がり、LEDの発熱がシステム全体の熱設計(筐体の密閉性など)を苦しめ、LED自体の寿命を縮める原因になります。

・グローバルシャッターの場合:一瞬の「パルス点灯」で済む
グローバルシャッターは全画素が一斉に露光するため、「露光している間だけ」LEDをピンポイントで光らせれば(パルス点灯)、画面全体に均一な照明を当てることができます。 点灯時間は、ローリングシャッターに比べて数十分の一にまで圧縮されます。

このLED同期パルス点灯により、グローバルシャッターには単に「歪まない」だけでなく、システム設計において以下のような巨大なメリットをもたらします。

圧倒的な省電力化:
バッテリー駆動のセキュリティデバイスや、車載システム(DMSなど)において消費電力を削減できます。

LEDの発熱抑制:
消費電力が少なくなることはLEDの発熱も少なくなることを意味します。そのため、筐体を小型化(ファンレス化、密閉化)しやすくなる、熱対策部品を削減できる等のメリットが生まれます。また、特に車載製品などで重要視される動作温度範囲に対しても圧倒的に有利となります。

外乱光(太陽光など)への強さ:
一瞬だけLEDを非常に強く光らせる(瞬間的な光量を稼ぐ)ことで、太陽光や他の照明環境などの不要な背景光をかき消し、検出したいパターンだけをクリアに浮き上がらせることができます。

■ メリット・デメリットのトレードオフ
これまでご説明した内容以外にも、グローバルシャッターには特有の特徴があります。それは、全画素が一斉に露光を終えた後、データを順次読み出すまでの間、画素内に電荷(データ)を一時的に蓄えておく「メモリ領域(電荷保持部)」が必要になる点です。
この領域を物理的に内蔵する分、画素の内部設計が複雑になります。その結果、ローリングシャッターと比較して画素サイズが大きくなりやすく、仮に同じ画素サイズで比較した場合は感度の面でやや不利になります。また、こうした製造上のハードルから、一般的にコストも上昇します。

ここまでの内容を表にまとめました。2つの方式はまさにトレードオフの関係にあることがわかります。

項目ローリングシャッターグローバルシャッター
動体歪み(画像認識への影響)発生する(アルゴリズム誤判定要因)発生しない(正確な形状認識可能)
画素サイズ小さくしやすい(高画素化に有利)大きくなりやすい(電荷保持部必要)
感度・ノイズ有利(画素構造がシンプルで受光面が広い)やや不利(電荷保持部への光漏れ対策等が必要)
センサコスト比較的安価比較的高価
LED同期時の熱・電力不利(点灯時間が長く熱問題に繋がりやすい)有利(一瞬のパルス点灯)

■ 現場での選定基準とユースケース
このトレードオフを踏まえると、現場での最適な選択肢は明確になります。

・ローリングシャッターが最適なケース
監視カメラ(静止画監視・広角)、ドライブレコーダー、風景撮影、一般的なWebカメラなど。
被写体が極端に高速で動かない、あるいは「静止画としての圧倒的な高解像度や低ノイズ(夜間感度)」を最優先したい場合。

・グローバルシャッターが最適となるケース
FA(工場自動化)の検査カメラ:高速で流れるラインでの外観検査、基板検査、アライメント決定など。
車載のDMS(ドライバーモニタリングシステム):脇見や居眠りを検知するため、赤外線LEDと同期して目の動きや視線を正確に追跡する。
高速バーコードスキャナ、AR/VRヘッドセット:手のジェスチャーや空間認識のトラッキングなど、認識の遅延やズレが許されない用途。

OMNIVISION社は、超高画素・高感度を誇るローリングシャッター製品群はもちろん、FAや車載DMS、AR/VR向けに画素サイズを極限まで抑えた最先端のグローバルシャッターセンサ(例:独自のピクセル技術を用いた、超小型かつ低消費電力なグローバルシャッターセンサなど)も非常に強力なラインナップを持っています。

■ まとめ
イメージセンサの『Shutter Type』の選定は、被写体の「動くスピード」だけでなく、「システム全体の消費電力やLEDの発熱、筐体のサイズ」まで見据えた総合的なアーキテクチャ設計そのものです。

「高速で移動するワークを扱うからグローバルシャッターが必要だが、コストや感度の面で悩んでいる」 「赤外線LED照明を使ったシステムを検討しているが、熱設計や消費電力がクリアできない」

こうした現場の複雑な課題に対して、私たち加賀デバイスは、OMNIVISION社の最適なセンサ選定はもちろん、パルス点灯を制御するための周辺回路部品や、後段のSoC/FPGAにおける同期制御技術までトータルでサポートいたします。「ローリングでソフトウェア補正を入れるべきか、それともグローバルで一発解決すべきか?」といった、設計の初期段階からのご相談も大歓迎です。ぜひ、お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせは以下からお願いします。
 ・加賀デバイス お問い合わせフォーム

※本記事はイメージセンサの一般的な特性を解説したものです。
最終的な性能はレンズの光学性能や画像処理にも依存し、また用途によって求められる品質規格や適用製品が異なります。採用時には個別の仕様をご確認ください。

【連載:現場目線で選ぶイメージセンサ 第3回 RAWかYUVか?画質と処理負荷の境界線を見極める】

【連載:現場目線で選ぶイメージセンサ 第2回】センサは決まったが動かない?通信方式とフレームレートに潜む「帯域の壁」

関連記事