【連載:現場目線で選ぶイメージセンサ 第5回】 スペック表に「感度」の文字はない?『Pixel Size』と『Technology』から見極める暗所・近赤外性能
2026.10.09
OMNIVISION Technologies, Inc.
(オムニビジョン・テクノロジーズ)

はじめに
第5回:スペック表に「感度」の文字はない?『Pixel Size』と『Technology』から見極める暗所・近赤外性能
■はじめに
こんにちは。加賀デバイスのOMNIVISION Teamです。
前回の第4回コラムでは、動く被写体を捉えるローリング/グローバルシャッター方式の違いや、LED同期発光による「省電力・低発熱」というシステム設計上の極めて実践的なメリットについて解説しました。
今回はイメージセンサ選定で多くの方が直面する「夜間や暗い場所でもきれいに映るセンサはどう選べばいいのか?」について解説します。
「暗所に強いセンサを探そう!」と思って、いざイメージセンサの製品一覧(スペック表)を開くと、実はどこにも「感度:〇〇」という項目は載っていません。
では、スペック表のどこを見て「このセンサは暗所に強いな」と判断すればよいのでしょうか。今回は、初めてセンサを選定する方でも迷わないように、スペック表に隠された『Pixel Size(画素サイズ)』と『Technology(製造プロセス技術)』という2つのキーワードを、わかりやすい例えを交えて優しく紐解いていきます。
■ やはり基本は物理的な「Pixel Size(画素サイズ)」
――「光を受けるバケツ」が大きければ、暗くてもたくさん光を貯められる
暗闇でどれだけ明るく写るか(暗所性能)を推し量る上で、一番わかりやすくて確実な指標が、
スペック表の『Pixel Size(画素サイズ、単位:µm)』です。
第1回のコラムでもご紹介した通り、画素は「光を集めるためのバケツ」に例えられます。
- 画素サイズが大きい(例:2.0µm、3.0µm〜): バケツの口が広いため、ぽつりぽつりとしか光が届かない暗い場所でも、たくさんの光を効率的にキャッチできます。結果として、ノイズ(画面のザラザラ感)が非常に少ない、クリアで明るい画像を撮影できます。
- 画素サイズが小さい(例:1.0µm以下): バケツの口が狭いため、光をキャッチしづらく、暗い場所では光を貯めることができず、画面が真っ暗になったり、無理に明るくしようとして大量のデジタルノイズが発生してしまいます。
選定の目安: 夜間の屋外監視カメラや、車内を撮影する車載カメラなど、「まずは暗所で映ることが絶対条件」という用途であれば、スペック表の『Pixel Size』の数値がなるべく大きいセンサ(目安として1.4µm〜2.0µm以上)を基準に選ぶのが、正攻法となります。
■ 画素が小さくても諦めない!「Technology」欄のピクセル構造技術
――「バケツが小さくても、光を逃がさない」メーカーの裏ワザ
しかし、実際の製品開発では、「カメラモジュールを小さくしたい」「でも画質は200万画素(フルHD)以上ほしい」という制約に必ずぶつかります。
これはつまり、「画素サイズを物理的に大きくできない(バケツを小さくせざるを得ない)」という状況です。
この物理限界を打ち破るために、メーカーが知恵を絞って開発した最新のテクノロジーが、スペック表の『Technology』欄に記載されています。
世界トップクラスのイメージセンサメーカーであるOMNIVISION社は、画素サイズが小さくても、驚くほどの明るさと美しさを両立させる独自のピクセル構造技術を誇っています。
1. 窓の前に電線を張らない「裏面照射(BSI)」
従来のセンサは、光を電気に変換する「受光部(フォトダイオード)」の上に、電気を流すための「金属配線層」が張り巡らされていました。これを表面照射型(FSI:Frontside Illumination)と呼びます。
これは例えるなら、「せっかく光を取り込むために窓(マイクロレンズ)を作ったのに、窓のすぐ外に太い電線(配線層)がゴチャゴチャと通っていて、部屋(受光部)に影ができてしまっている」ような状態です。
これに対し、OMNIVISION社の代表的な技術である『OmniBSI™(裏面照射型:Backside Illumination)』は、半導体の構造をガラリとひっくり返しました。
なんと、配線層を受光部の下に配置し直したのです。これにより、窓を遮る障害物がなくなり、入ってきた光を直接、受光部に取り込めるようになりました。これが、画素サイズが小さくても暗所に劇的に強くなった最大の秘密です。

図1:FSI/BSI構造のイメージ図
2. 隣の部屋との壁をしっかり仕切る「PureCel® / PureCel®Plus」
裏面照射のメリットをさらに追求したのが、OMNIVISION社の『PureCel®』『PureCel®Plus』技術です。画素がどんどん小さくなると、隣り合う画素が密着しすぎて、隣の部屋の光や色が漏れ込んで混ざり合ってしまう「混色(クロストーク)」という現象が起こり、画像がボケたり色褪せたりします。PureCel®Plusは、この問題に対処するため、光を効率よく取り込みつつ隣へ漏らさないための複合的なピクセル構造技術を採用しています。
その中心となるのが、「ディープ・トレンチ・アイソレーション(DTI)」という技術です。これは画素と画素の間のシリコン内部に、物理的で強固な「遮光壁」のような仕切りを深く埋め込むものです。
さらに、DTIに加えて、シリコン表面の上部(カラーフィルターの間)にも金属の壁(メタルグリッド)を設けたり、光を集めやすくする構造の最適化を行っています。 これらの複合的な構造により、「隣の部屋からの光の侵入を徹底的にシャットアウトし、小さな画素でも、輪郭がクッキリした美しい色を再現できる」ようになっています。

図2:DTI構造のイメージ図
■ 究極の暗闇(近赤外線)で圧倒的な差がつく「Nyxel®(ニクセル)」技術の魔術
―― シリコンをすり抜ける「幽霊のような光」を閉じ込める
さらに「センシングカメラ(認識用カメラ)」の領域になると、話は人間の目に見える光(可視光)を飛び越え、近赤外線(NIR:Near-Infrared)の領域へと入っていきます。
前回(第4回)のコラムでご紹介した、車載DMS(ドライバーモニタリング)や暗闇の防犯カメラ、スマートホームの顔認証などは、肉眼では見えない完全な暗闇の中で撮影するため、夜間は「赤外線LED」の光を照射して撮影します。ここで、イメージセンサにとって非常に頭の痛い、物理的な大問題が発生します。
実は、近赤外線の光は、イメージセンサの素材である「シリコン」をすり抜けやすい(素通りしてしまう)という厄介な性質を持っています。光が素通りしてしまうと、センサはそれを電気信号に変換できません。
この「シリコンを素通りする幽霊のような光」を完全に捕まえるために開発された、OMNIVISION社の世界最高峰の近赤外感度向上技術が『Nyxel®(ニクセル)』です。
Nyxel®は、主に以下の3つのアプローチで、近赤外線の感度を飛躍的に高めています。
- シリコン層を厚くする(受け止めるクッションを厚くする)。
すり抜けやすい光に対して、シリコンの層を物理的に厚くすることで、光が衝突して吸収される確率を高めています。 - 前項で解説した壁を深く掘るDTI(ディープ・トレンチ・アイソレーション) 構造。
シリコンの層を厚くすると、隣の画素へ光が斜めに逃げてボケやすくなります。
そこで、画素の境界線にシリコンを貫通する「遮光壁」を深く掘り、光が隣の部屋に漏れ出すのを鉄壁ガードしています。 - 画素の底面に特殊な微細構造を施す。
画素の底面にボコボコとした特赦な微細構造を施すことで、入ってきた近赤外光がこの底面にぶつかると、
光がまっすぐ抜けず、斜めに跳ね返って画素の中で「ピンボール」のようにジグザグに反射を繰り返します。 部屋のなかに光を閉じ込めることで、光がシリコンに吸収される時間を限界まで稼いでいるのです。
この3つの合わせ技により、Nyxel®技術を搭載したセンサは、搭載していないセンサと比較して、近赤外線の感度が飛躍的にアップしています。
過去、加賀デバイスコラムで個別にNyxel®技術を紹介しておりますので、実際の画像等は以下該当記事を参照ください。
・Nyxel®テクノロジーのご紹介
■ Nyxel®がもたらすシステム全体の「省電力・低発熱」
―― センサの感度が上がると、カメラ機材全体の設計が劇的に楽になる!
第4回のコラムでは、「グローバルシャッターを使用すれば、LEDの点灯時間を一瞬のパルス(同期)点灯にできるため、消費電力と発熱を劇的に抑えられる」と解説しました。
今回のNyxel®技術は、そのメリットをさらに上のレベルへ押し上げます。
センサ側の赤外線を受ける力(感度)が上がるということは、「照射するLED側の光(パワー)を減らしても、同じ明るさの鮮明な画像が撮れる」ということを意味します。これによって、カメラシステム全体の設計には、以下のような驚くべき恩恵がもたらされます。
- 部品代(LEDコスト)の削減: LEDの搭載個数を減らしたり、低い出力のLEDドライバや小さい安価なLEDに置き換えることができます。
- 発熱問題の解決: LEDが発熱しにくくなるため、カメラ筐体をファンレス(無風)にしたり、中に熱がこもりやすい完全密閉の小型カメラにしたりするハードルが下がります。
- 目への優しさ(アイセーフティ): 車載DMSなど、常にドライバーの顔に赤外線を照射するシステムにおいて、照射パワーを極限まで弱められるため、「乗員の目の安全性」を担保しやすくなります。
このように、『Nyxel®』というTechnologyを選ぶことは、単に「暗所で明るく写る」というレベルを超えて、「製品全体のコストを下げ、熱問題や安全基準を軽々とクリアするための、最大の武器」になるのです。
■ まとめ:スペック表の「裏」にある技術を見極める
イメージセンサを選定する際、製品一覧(スペック表)の「画素数」や「フレームレート」といった目立つ数値だけを眺めていても、本当に欲しいカメラの性能は見えてきません。
「Pixel Size」が少し小さくても、スペック表のTechnology欄に『PureCel®Plus』や『Nyxel®』の文字があれば、それは「厳しいサイズ制約のなかでも、暗所や近赤外線環境で、あなたの期待を遥かに超える仕事をしてくれる強力な証拠」となります。
「私たちの開発したいシステム(監視、車載、スマートホーム等)には、どのセンサが最適だろう?」
「赤外線LEDと組み合わせた際の、熱や消費電力のシミュレーションを具体的にしてみたい」
技術的に難しく聞こえる部分もあるかもしれませんが、どうぞご安心ください。
私たち加賀デバイスは、お客様のシステムに最適なセンサの選定はもちろん、実際の暗所での「見え方」を実機で確認できるデモ機の貸し出し、周辺回路や赤外線LEDの制御に関する技術的なアドバイスに至るまで、お客様の技術パートナーとして製品開発を伴走・サポートいたします。
仕様が決まっていなくても、「こんな製品が作りたい」というアイデア段階からで構いません。どうぞお気軽に、加賀デバイスへご相談ください。
お問い合わせは以下からお願いします。
・加賀デバイス お問い合わせフォーム
※本記事はイメージセンサの一般的な特性を解説したものです。
最終的な性能はレンズの光学性能や画像処理にも依存し、また用途によって求められる品質規格や適用製品が異なります。採用時には個別の仕様をご確認ください。
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