nRF52とnRF54Lの仕様差異と設計ワンポイントアドバイス

こんにちは。加賀デバイスのNordic Teamです。 nRF54Lシリーズがリリースされ、様々な媒体でnRF54Lシリーズの特徴が公開されています。特に高性能化、低消費電力化が最大の特徴として上げれていますが、nRF54LシリーズはnRF52シリーズと比較して、いくつか異なる点があります。nRF52シリーズで設計・開発の経験がある方からすると、戸惑うところもあるかと思います。そこで今回は、nRF52シリーズとnRF54Lシリーズでの設計上、特に大きく異なる3点を下記にて紹介致します。 1.NVM(不揮発性メモリ)2.内部電源(レギュレータ) 3.GPIO ピンアサイン ◢◤1.NVM(不揮発性メモリ)nRF54Lシリーズのデータシートを見ると、nRF52シリーズでは”Flash”と記載されていた箇所が“NVM(RRAM)”に変わっている事がわかります。 NVMとはNon-volatile memory 、つまり不揮発性メモリを指します。nRF52シリーズではNVMにFlashメモリを採用していましたが、nRF54LシリーズではRRAM(抵抗変化型)メモリを採用しています。 一般的にRRAMとFlashを比較すると下記の違いがあります。 Flash メモリ RRAM メモリ 書き込み方式 書き込み前に消去が必要(Erase-before-write) 消去不要で直接上書き可能(Over write) 書き込み速度 遅い(消去・書き込み時間が長い) 速い(消去不要で即時書き込み) 消費電力 書き込み時に比較的高い 書き込み時に低い 耐久性 書き換え・消去回数制限有(ウェアレベリング必須) 高耐久(書き換え回数が多い) RRAMメモリの場合、ファームウェアの書き込み/消去時は特に意識する必要はないですが、ユーザーアプリケーションからストレージとして使用する場合は注意が必要です。 Flashメモリをストレージとして使用する場合、NVS(Non-Volatile Storage)というサブシステムを使用していましたが、RRAMメモリではZMS(Zephyr Memory Storage)を使用する必要があります。ZMSでは書き込みと消去のサイクル数を削減し、不揮発性メモリの寿命を延ばす柔軟なデータ管理システムを採用しています。 TechDocsに使用方法など詳細が記載されているので、nRF54LシリーズでNVMをストレージとして使用する際はご一読ください。 ◢◤2.内部電源(レギュレータ) nRF52シリーズでは内部電源にLDOを使用するのか、DC/DCを使用するのかをユーザーが選択することができました。一方、nRF54Lシリーズでは起動時のみLDOが使用され、その後はDC/DCでの動作のみがサポートされています(LDOは初期化時専用) nRF54LシリーズではLDOを使い続けることは想定されておらず、DC/DCでの運用が必須です。外部インダクタが未接続の場合はLDOのままですが、これは異常状態として検出されます。 この設計方針は、最新プロセス技術とシステム全体の省電力化を最大限に活かすためのもので、nRF54LシリーズはnRF52シリーズと比較して、アクティブ時・無線通信時ともに消費電流が大幅に低減しています。 データシートの”Current consumption”(消費電流)の項の条件も、nRF52シリーズでは基本LDOでの値が記載されており、DC/DCの場合は項目ごとに条件に追記されていましたが、nRF54LシリーズではDC/DCの値のみ記載されている点ご注意ください。 ◢◤3.GPIO ピンアサイン nRF52シリーズではほとんどのピンが汎用的に使用でき、どの周辺機能にも割り当て可能でした(一部アナログ/NFC/クリスタル用ピンを除く) nRF54Lシリーズではパワードメイン(※後述)毎に周辺機能とGPIOが分かれているので、ピンアサインやGPIOの機能を使用する際に考慮する必要があります。 この違いは内部電源構造の違いによるものです。nRF52シリーズではすべてのGPIOが同じ内部電源管理下にありましたが、nRF54Lシリーズではパワードメインを分けて、それぞれ独立して電源管理を行っています。 SoCに複数のパワードメインを実装する主な理由の一つは、低消費電力動作を実現することです。各ドメインに個別に電源を供給できるようにすることで、チップの大部分を必要のないときにオフにすることができ、消費電力の低減に貢献します。 ◆パワードメイン nRF54L シリーズのアーキテクチャは 4 つのパワードメインに分かれています。 ●1. MCUドメイン(MCU PD)主な用途:高性能な処理(最大128MHz)を必要とする機能含まれる機能:Arm Cortex-M33、RISC-Vコプロセッサ、高速通信(HS-SPIなど)周辺機能No:0から始まる(例:UARTE00など)専用GPIO:P2…

nRF Cloud その6 -Location Service-

こんにちは。加賀デバイスのNordic Teamです。 nRF Cloudコラムシリーズですが、今回はLocation Serviceの機能について記事を書きたいと思います。 nRF Clouldでは Location Serviceの機能 としてAssisted GNSS(以降A-GNSS)・Predicted GNSS(以降P-GNSS)・Single-cell Location(以降SCELL)・Multi-cell Location(以降MCELL)・Wi-Fi Locationの機能を提供しています。 A-GNSSやP-GNSSを使用することで測位時間を早める事が出来ます。CellベースのLocationを使用することでGNSSが届かない屋内でもデバイスの位置情報をある程度の範囲で特定することが出来ます。また、Wi-FiベースのLocationを使用する事でCellベースのLocationよりさらに精度良く屋内での位置情報の取得が可能となります。 それではそれぞれの機能についてもう少し詳しく見ていきたいと思います。 ◢◤A-GNSS & P-GNSS nRF91シリーズのGNSS機能を使う事で位置情報を取得することは可能ですが、通常のGNSSでは50bit/sという低データレートのため測位までに時間がかかってしまいます。そのためA-GNSSやP-GNSSを使い、事前に衛星のデータをLTE経由でnRF Cloudから取得する事で測位時間を早める事ができます。   Cloud-assisted implementation using A-GNSS and P-GNSS nRF CloudのA-GNSSとP-GNSSのライブラリについては下記で説明しています。 *ドキュメントではP-GPSとなっていますが、P-GNSSと同意義となります。   A-GNSS   P-GPS A-GNSSとP-GNSSの主な違いはデータ更新のタイミングです。A-GNSSは最大で4時間(平均して2時間)ごとにデータ受信しますが、P-GNSSは最大で2週間分(ライブラリのデフォルトでは1週間分)のデータをまとめて受信します。A-GNSSは頻繁にLTE接続が発生しますが、P-GNSSはまとめてデータを受信するため低消費電力に向いています。ただし、P-GNSSは2週間分のデータを保存する為のある程度のメモリ領域を使用します。1週間分であれば約84kByte程度必要となります。測位時間についてはA-GNSSの方が常に最新のデータを扱えるためP-GNSSと比べると早くなります。まとめると下記のようになります。 実際にnRF Connect SDKの GNSS のサンプルプロジェクトを使用して、GNSSのTTFFとA-GPS/P-GPSのTTFFを測定してみたいと思います。 *TTFFの値は、測定場所や測定環境に大きく依存するため、参考程度に見て頂ければと思います。 下記がプログラムを書き込んだ直後のTTFFの値となります。 〇GNSS:30秒±5秒程度 〇AGPS:5秒±3秒程度 〇PGPS:60秒±20秒程度 GNSSは仕様書に記載の値(TYP:30.5s)に近い値となりました。AGPSは実際にはLTE経由でのダウンロード時間も含まれていると思われますが、数秒単位とかなり早く測位が出来ています。PGPSはLTE経由のダウンロード時間がかなりかかっていますが、ダウンロード時間を差し引くと平均して10秒程度で測位出来ていました。 続いて、評価ボードのリセットボタンを押した時のTTFFそ測定してみました。 〇GNSS:30秒±5秒程度 〇A-GPS:2秒±2秒程度 〇P-GPS:10秒±3秒程度 GNSSはプログラム書き込み直後TTFFと変わらない値となりました。A-GPSはプログラム書き込み直後のTTFFは早かったのですが、そこから1-2秒程度早くなってい感じでした。P-GPSはアシストデータのダウロード時間がなくなった分、プログラム書き込み直後と比べるとだいぶ早くなっています。 ◢◤SCELL & MCELL CELLベースの位置測位では、CELL=基地局の情報(MCC,MNC,ECI,TACなど)をもとに位置情報を取得します。GNSSの機能を使わないため低消費電力にはなりますが、位置情報の精度はGNSSと比べるとかなり悪くなります。   Location based on…